うつ病になりやすい人は自己評価の低い人?

■抑うつ症(うつ病)
生きてくうえでさまざまな問題にぶつかれば、
私たちは誰もがうつ病になる可能性を持っている。

だが、どのくらいの確率でそうなるかは、
その人の持つ自己評価によって変わってくる。

では、どんな人が危険なのだろう?

ごく普通に考えれば、それは自己評価の低い人である。

だが、自己評価が高くても、それが不安定であれば、
うつ病になる危険性は高い。

自己評価が高く不安定 な人は、
自分の地位やイメージを保つために絶えず努力している。

だが、そのいっぽうで失敗や人からの批判には弱い。

そこで、自分のしていることがうまくい かなかったりすると、
深く落ちこんでしまう場合があるからだ。

しかし、そうはいっても
うつ病の可能性と言うことであれば、
やはり自己評価が低く安定している人がいちばんだろう。

自己評価が低く安定している人は自分を 否定する気持ちが強く、
その状況を改善する努力をしない。

その結果、少しでも何かがあれば抑うつ状態になり、
そこから抜け出すことが難しいからだ。

■自己評価が低いのはうつ病か?
では、自己評価が低いこととうつ病であることはどう違うのか?

反対に、この二つはどういうふうに関係しているのか?
しばらくはそのことについて考えてみよう。

まずはこの二つの違いについてまとめよう。
 ◆―自己評価が低いこと(特に低く安定している)
<自己評価の状態> ほとんど変化しない。
<病気かどうか> 性格の特徴にすぎない。
<精神状態> もろくて不安定。
<行動との関係> 自分の行動に自信が持てない、
しなければならないことを先延ばしにする、
自分の行動に満足できない、などの問題がある。
<身体的な症状> 特にない。
<心理的な特徴> 自分に価値があると思えない。すぐにあきらめる傾向にある。
<自殺の恐れ> 死や自殺について考えることはない。
<知能に対する影響> 本人は「知的能力が劣ってきている」と言うことがあるが、
客観的にはそういった現象は見られない。集中力も記憶力も正常に働く。

 ◆―抑うつ症(うつ病)
<自己評価の状態> 変化することがある。
<病気かどうか> 病気。
<精神状態> 深く病的な悲しみが続く。良い出来事には反応を示さない。
<行動との関係> 気分がうちひしがれて、何をしても楽しくない、
何もしたくない、などの障害がある。
<身体的な症状> 食欲不振。不眠。動作が緩慢になる。無力症。
<心理的な特徴> 自分を卑下したり、過剰で不適切な罪悪感を持つ。
<自殺の恐れ> 死や自殺について考えることがある。
<知能に対する影響> 客観的に測定できる。集中力と記憶力に障害が見られる。

このうちいちばん大きな違いは
病気かどうかということだろう。

うつ病は文字通り精神の病である。

だが、自己評価が低いというのは性格の特徴にすぎない。
これは大切なポイントである。

いっぽう、この二つの関係に目を向けると、
まず何よりも自己評価の低さはあらゆる種類の
うつ病に共通して表れる症状であるということが言える。

すなわち、うつ病になると、自己評価は著しく低下するのである。

◆―発症する危険
青年期(十二歳から十九歳くらい)に自己評価の低かった人間は、
大人になってからうつ病を発症することが多い。

また、<産後抑うつ>として知られる出産後 のうつ病は、
まわりの人間からサポートを得ると同時に、
自己評価を良好に保つことによって、
発症しにくくなるという。

これについてはまた別の研究も行われ ていて、
七百三十八人の女性を対象に調査を行ったところ、
<産後抑うつ>にかかった女性は圧倒的に自己評価の低い人が多かったという。

ところで、うつ病になる危険は、残念ながら
親から子に伝えられることがある。

たとえば、ある研究によると、母親がうつ病の子どもは、
そうでない子どもに比 べて自己評価が低いことがわかった。

これはうつ病の母親が子どもに対して
否定的なメッセージを送ることが多いからであるが
(子どもの将来を悲観したり、お まえは駄目な子だとすぐに口にする)、

こうして青年期までに低い自己評価ができあがれば、
本人がうつ病になる危険性も高くなるというわけである。

これとは反対に高く安定した自己評価ができていれば、
たとえ両親が離婚するなど辛い出来事があっても、
それに耐えることができる。

両親の離婚はうつ病を引 き起こしかねないほど
重大な出来事である。だが、自己評価が高ければ、
その危険を比較的容易に避けることができるのである。

◆―病気の程度と慢性化
うつ病を発症した場合、自己評価が低ければ低いほど、
そのうつ病の程度は重症になる。

また、それと同時に回復の契機もつかみにくくなるので、
病気は慢性す る恐れがある。

というのも、自己評価が低ければ、
患者は何も行動を起こさず、
自分を好きになることができないまま、
ただ否定的な感情を心のなかで反芻す る。

自分が回復して社会復帰できるようになるとも思わない。

ということになれば、いつまでたっても心配事を抱えるばかりで、
気持ちが明るく勇気づけられる ようなことは何も起こらなくなるからである。

この反対に、まだ軽いうつ病の場合は、
患者のなかにも社会と接触を持って
人から認められたいという気持ちが残っている

―すなわち、わずかながらでも自己評 価は高い。

そうなると、先ほどとは反対の理由で回復の道筋が見えてくる。

人から認められれば気持ちも明るくなり、自信も出てくる。

そうなれば、また何かを する気になって、という具合に
状況がいい方向に回転して、

最後にはうつ状態から脱することができるのだ。

自分に対して肯定的な気持ちを持つ(自己評価を高 くする)といのは、
回復には欠かせない大切な要素なのである。

■引き金になる出来事
うつ病の引き金になる出来事は性格のタイプによって違うという説がある。

うつ病との関連で人間は二つのタイプに分けられる、
「向社会型人間」と「自主独立型人間」である。

そして、このどちらに属するかによって、
どんな出来事がうつ病の引き金になるかが変わってくるという。

 ◆―「向社会型人間」の場合
<定義> 他の人からつねに注目されたり、励まされたりする必要がある人間。
<うつ病の引き金となるような出来事> 誰かに批判される、あるいは人から
受け入れられなかったり、仲間はずれにされたと感じる出来事。
<自己評価への影響> 自分は人から愛されないと思う。

 ◆―「自主独立型人間」の場合
<定義> 目標に到達することが大切で、他の人から支配されたり、
束縛されたりするのを嫌う人間。
<うつ病の引き金となるような出来事> 何かに失敗すること、あるいは、
人に頼らなければならなくなるような出来事。
<自己評価への影響> 自分には能力がないと思う。

「人から受け入れられなかった」というのは、
「愛されなかった」ということである。

また、「失敗した」というのは「自分の能力が否定された」ということで ある。

これは前に述べた自己評価の栄養源の話と関係している。

自己評価の栄養源は、「愛されているという気持ち」と
「能力があるという気持ち」を合計した ものである。

ところが、この二つのタイプの人間は、
そのどちらかが見たされなかった場合に
うつ病になりやすくなるのだ。

うつ病の引き金になった出来事を調 べていくと、
そのおおもとはやはり自己評価が傷ついたことにあったのである。

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