躁うつ病

「躁うつ病」と診断するには、抗うつ剤を
服用していない時に、
「元気になりすぎたり、落ち込んだりする」

ことを繰り返している事実がなければなりません。

「うつ病」の治療をしている過程で、抗うつ剤が
効き過ぎたことにより、躁状態になるのは、
「躁うつ病」とは言いません。

「うつ病」と診断した患者さんの約20人に1人は
実はこの「躁うつ病」である場合があります。

「躁うつ病」と診断するには、これまでの病歴聴取が
非常に重要になってきます。

今回、うつ状態ではあるが、実は以前、
何日眠らなくても平気で活動していた、とか
人に電話をかけまくっていたことがあった、
予算をわきまえず多額の買い物をした、など。

最初から「躁うつ病」と的確に診断できれば、
抗うつ剤と気分安定薬を加減して併用処方
することができます。

躁状態は「元気が良くて気分が高揚して別に
悪いことないのでは?」という質問を
たまに医学生や一般の方から受けることが
ありますが、これは違います。

確かに、躁状態の時、本人は、
ハイな状態でいいかもしれませんが、
逸脱行為も多く、周囲が大変迷惑します。

また、躁の時は、過活動にもなり、
大変なエネルギーを消耗します。

そして、人間はいつまでもハイな状態は
続かないようにできています。

ですから、正常に戻った時、あるいは
うつ状態になった時、想像を絶する程
「ガクーン」ときます。

うつ病の場合は、日常生活の中で自分で
治すことが可能です。

しかし、「躁うつ病」の場合は、必ず
精神科での治療をしなければなりません。

たとえ、病院が遠くても2週間に1回は
精神科受診する必要があります。

また、「躁うつ病」は「うつ病」に
比べて、身体疾患を合併している割合
が高いため、身体検査も定期的に
綿密に行っていく必要があります。

双極性障害の治療法

心理療法

双極性障害は、単なるこころの悩みではありませんから、
カウンセリングだけで治るようなものではありません。

 

しかし、病気をしっかり理解し、
その病気に対するこころの反応に目を配りつつ、
治療がうまくいくように援助していく、
ある種の精神療法が必要です。

こういった精神療法を、医師の立場からは、
心理教育といいます。


(患者さんの立場から言えば、疾患学習という感じです。)

心理教育ではまず、病気の性質や薬の作用と副作用を理解し、
再発のしるしは何なのかを自分自身で把握することをめざします。

再発をほうっておくと自分でも病気の自覚がなくなり、
病院に来ることができなくなってしまいますが、

初期に治療を開始すれば、


ひどい再発にならなくてすむからです。

そのため、再発した時に、最初に出る症状(初期徴候)を確認し、
本人と家族で共有することが大事です。


再発のきっかけになりやすいストレスを事前に予測
し、

それに対する対処法などを学ぶことも有効です。
また、規則正しい生活をおくることも、
双極性障害の治療にはよい効果があります。


徹夜を避け、朝はしっかり日の光を浴び、

散歩などの軽い運動をする、といった形で、
できる限り一定のスケジュールで生活することは、
病気の安定化にとても大切です。


筆者が双極性障害を治したのはこの方法に

なります。

双極性障害の治療法

双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬です。
日本で用いられている気分安定薬には、
リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンがあります。


その他、

日本では双極性障害に対する適応が認められていない薬の中に、
海外で双極性障害に対する有効性が確認されている薬がいくつかあります。


気分安定薬であるラモトリギン

(日本では難治性のてんかんに対して適応が認められています)、
非定型抗精神病薬であるクエチアピン、オランザピン、
アリピプラゾールなどです

(これらは、日本では統合失調症に対して適応が認められています)。

 

このうち、最も基本的な薬はリチウムです。

リチウムには、躁状態とうつ状態を改善する効果、
躁状態・うつ状態を予防する効果、自殺を予防する効果があります。


しかし、リチウムは副作用が強く、使い方が難しい薬でもあります。


リチウムを飲む時は、血中濃度を測りながら使わなければいけません。


リチウムを服用してすぐの濃度は不安定なので、

通常は、前の夜に服用した翌朝など、
血中濃度が落ち着いた時間に採血して、血中濃度を調べます。


有効な血中濃度は0.4mMから1.2mMくらいの間で、

これを超えると副作用が出やすくなります。


リチウムの副作用として、とくに飲み始めに下痢、食欲不振、

のどが渇いて多尿になる、といった症状が出ることがあります。


また手の震えは、有効濃度で服用していても長期に続く場合があり、

なかなかやっかいな副作用です。


さらに、血中濃度が高くなり過ぎると、

ふらふらして歩けなくなり、意識がもうろうとするなど、
様々な中毒症状が出る場合があります。


甲状腺の機能が低下する場合もありますが、

これは甲状腺ホルモン剤を合わせて飲むことで対処できます。


体調が変化した時

(食事や飲水ができないことが続いた時、腎臓の病気にかかった時など)には、
急激に血中濃度が高くなって中毒症状が出る場合があるので、
血中濃度をチェックする必要があります。


また、様々なほかの薬(高血圧の薬など)との組み合わせによって、

リチウムの血中濃度が急に高まったり、
中毒が起きやすくなったりする場合があります。


別の病院でもらった薬でも、

同じ院外薬局で出してもらうようにすることで、
飲み合わせの悪い薬がないかどうか、
薬剤師に確認してもらえるでしょう。


リチウムなどの気分安定薬に加えて、

うつ状態の時には、抗うつ薬が処方される場合もあります。


しかし、抗うつ薬の種類によっては、

かえって症状が悪くなってしまうこともあるので、注意が必要です。


とくに三環系抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの抗うつ薬は、

躁状態を引き起こすことがあるので、
双極性障害の方はできる限り避けたほうがよいでしょう。


また、まだはっきりしたことはわからないのですが、
双極性障害の方が抗うつ薬を飲むと、
アクティベーションシンドロームと呼ばれる、
かえって焦燥感などが強まって悪化してしまう状態が
起きやすいのではないか、と疑われています。


うつ状態で病院に行った時に、

過去の躁状態について話をしそこなった場合という場合は、
医師がこうした可能性について注意を払うことができません。


うつ病として治療を受けているけれど、

過去に躁状態や軽躁状態があったかもしれないと思う人は、
必ず医師に伝えてください。


とくに「うつ病と診断されて抗うつ薬を飲んだけれど、症状が悪化した」

という人は、双極性障害である可能性も考えて、医師に報告し、
よく相談してください。


精神科の治療は、副作用との戦いです。

精神疾患には有効な治療が多くあるのですが、
どれも副作用があるものばかりです。


とくに双極性障害の治療薬であるリチウムの副作用は、

けっして軽いものではありません。


しかし副作用のない薬はなく、

双極性障害の治療薬は限られています。


「副作用が出たから、この薬は合わない」とやめてしまうと、

せっかく回復できる可能性があるのに、
これをみすみす失っていることになってしまいます。


薬には副作用があることを前提として、

自分の病気のコントロールのために、
どのように副作用と折り合いをつけながら治療していこうか、
という姿勢で臨むことが大切です。

 

次回は副作用のない心理療法の話をします。

双極性障害の症状

躁状態

双極Ⅰ型障害の躁状態では、
ほとんど寝ることなく動き回り続け、
多弁になって家族や周囲の人に休む間もなくしゃべり続け、
家族を疲労困ぱいさせてしまいます。


仕事や勉強にはエネルギッシュに取り組むのですが、

ひとつのことに集中できず、何ひとつ仕上げることができません。


高額な買い物をして何千万円という借金をつくってしまったり

法的な問題を引き起こしたりする場合もあります。


失敗の可能性が高いむちゃなことに次々と手を出してしまうため、

これまで築いてきた社会的信用を一気に失ったあげく
仕事をやめざるをえなくなることもしばしばあります。


また、自分には超能力があるといった誇大妄想をもつケースもあります。

 

 

軽躁状態

双極II型障害の軽躁状態は、
躁状態のように周囲に迷惑をかけることはありません


いつもとは人が変わったように元気で、

短時間の睡眠でも平気で動き回り、
明らかに「ハイだな」というふうに見えます。


いつもに比べて人間関係に積極的になりますが、

少し行き過ぎという感じを受ける場合もあります。


躁状態と軽躁状態に共通していえることは、多くの場合、

本人は自分の変化を自覚できないということです。

 

 

 

 

大きなトラブルを起こしていながら、
患者さん自身はほとんど困っておらず、
気分爽快でいつもより調子がよいと感じており、
周囲の困惑に気づくことができません。

 

 

うつ状態

双極性障害の人が具合が悪いと感じるのは、うつ状態の時です。
筆舌に尽くしがたい、何とも形容しがたい
うっとうしい気分が一日中、何日も続くという
「抑うつ気分」と、


すべてのことにまったく興味をもてなくなり、

何をしても楽しいとかうれしいという気分がもてなくなる
「興味・喜びの喪失」の二つが、うつ状態の中核症状です。


これら二つのうち少なくともひとつ症状があり、

これらを含めて、早朝覚醒、食欲の減退または亢進、
体重の増減、疲れやすい、やる気が出ない、自責感、自殺念慮

といった様々なうつ状態の症状のうち、
5つ以上が2週間以上毎日出ている状態が、うつ状態です。
双極性障害では、最初の病相(うつ状態あるいは躁状態)から、
次の病相まで、5年くらいの間隔があります。


躁やうつが治まっている期間は何の症状もなく、

まったく健常な状態になります。


しかし、この期間に治療をしないでいると、

ほとんどの場合、繰り返し躁状態やうつ状態が起こります。


治療がきちんとなされていないと、

躁状態やうつ状態という病相の間隔はだんだん短くなっていき、
しまいには急速交代型(年間に4回以上の病相があること)へと
移行していきます。


薬も効きにくくなっていきます。


双極性障害で繰り返される躁状態の期間とうつ状態の期間を比較すると、

うつ状態の期間のほうが長いことが多く、
また先述の通り、本人は躁状態や軽躁状態の自覚がない場合が多いので、
多くの患者さんはうつ状態になった時に、うつ病だと思って受診します。


そして病院にかかった時に、以前の躁状態や軽躁状態のことが

うまく医師に伝わらない場合、治療がうまく進まないことがあります。


このように、双極性障害が見逃されている場合も少なくないと思われます。

双極性障害の考え方

双極性障害は、精神疾患の中でも
気分障害と分類されている疾患のひとつです。

うつ状態だけが起こる病気を「うつ病」といいますが、
このうつ病とほとんど同じうつ状態に加え、
うつ状態とは対極の躁状態も現れ、
これらをくりかえす、慢性の病気です。

 

昔は「躁うつ病」と呼ばれていましたが、
現在では両極端な病状が起こるという意味の
「双極性障害」と呼んでいます。

 

なお、躁状態だけの場合もないわけではありませんが、
経過の中でうつ状態が出てくる場合も多く、
躁状態とうつ状態の両方がある場合とはとくに区別せず、
やはり双極性障害と呼びます。

 

双極性障害は、躁状態の程度によって二つに分類されます。

家庭や仕事に重大な支障をきたし、
人生に大きな傷跡を残してしまいかねないため、
入院が必要になるほどの激しい状態を
「躁状態」といいます。

 

一方、はたから見ても明らかに気分が高揚していて、
眠らなくても平気で、ふだんより調子がよく、仕事もはかどるけれど、
本人も周囲の人もそれほどは困らない程度の状態を
「軽躁状態」といいます。

 

うつ状態に加え、激しい躁状態が起こる双極性障害を
「双極I型障害」といいます。


うつ状態に加え、軽躁状態が起こる双極性障害を

「双極II型障害」といいます。

 

双極性障害は、精神疾患の中でも治療法や対処法が
比較的整っている病気で、薬でコントロールすれば、
それまでと変わらない生活をおくることが十分に可能です。

 

ただし、薬の飲用を常としているので
副作用として色々な弊害がもたらされ
更にその副作用を抑えるための薬の併用も必須となります。
(別記事参照)

しかし放置していると、何度も躁状態とうつ状態を繰り返し
その間に人間関係、社会的信用、仕事や家庭といった
人生の基盤が大きく損なわれてしまうのが、
この病気の特徴のひとつでもあります。

このように双極性障害は、うつ状態では死にたくなるなど、
症状によって生命の危機をもたらす一方、
躁状態ではその行動の結果によって社会的生命を脅かす
重大な疾患であると認識されています。

 

 

また通常のうつ病から時と共に変化し
慢性化して
双極性障害となる場合もあります。