うつ病と仕事の関係
うつ病と仕事の関係は極めて密接です。
うつ病は、仕事上のストレスが要因となっていることが多いでしょう。
どんなストレスが引き金となって発症しているケースが多いでしょうか?
うつ病を引き起こす仕事のストレスとして典型的なものは…
業務内容が変わった
長時間労働、過重労働
新しいシステムへの適合
役割や地位が変わった
昇進、降格
配置転換
組織再編
リストラ
等があげられます。
うつ病を引き起こす仕事として、いわゆるブラック企業などでの
長時間労働や過重労働、クレーム処理など常に
プレッシャーにさらされる業務等があげられますが、
しかし、そういった仕事に従事していたから必ず発症するというものでもありません。
またうつ病は仕事上の人間関係の問題から発症するケースも
非常に多く見受けられます。
部下と上司の関係、同僚とのトラブルやセクハラ、
パワハラ等があげられます。
ではうつ病は、逆に仕事上の人間関係がまったく無いところでは
発症しないかというと、そんなことはありません。
IT系の仕事や、コンピュータ相手の事務作業で
人間関係がほとんど欠乏している職場でも、高い比率で発症しています。
グローバル化しIT化している現代企業社会の中では、
実に多種多様な要素が絡み合って、豊かな人間関係の
欠乏や希薄化を生じているのが背景にあるのは事実です。
かつて日本では、上司と部下との関係や
会社での同僚との関係、あるいは先輩と後輩の関係は、
濃密で豊かで言わば家族的なものでした。
現代の企業社会ではこれが合理化され忌避されてきました。
家族との関係ですら、核家族化と少子化によって、
かつての家族関係のような濃密さ豊かさが失われつつあります。
職場でのうつ病の主因=仕事上のストレス要因を
和らげて吸収するこれらの社会的なサポートが構造的に失われつつあるのです。
うつ病と診断されても仕事は続けられるか?
この疑問にはいくつかの意味があります。
■ 1) ストレス耐性の問題
うつ病の症状を抱えながら、今の仕事の責務に耐えてやっていけるのか? ストレスに耐えながら頑張り続けていけば、
やがて突破口が見つかって、バリバリ仕事が続けられるのか?
うつ病になると仕事でのストレスに対する耐性が極度に衰えてきます。
困難を乗り越える心の構えが無くなってしまいます。
したがって今の仕事を今の状態のまま続ける限り、
突破口を切り開けるとは考えないほうが良いでしょう。
■ 2) 業務能力の問題
うつ病になると、仕事で使う脳内のいろいろな機能が、
うまく働かなくなる、というのも事実です。
記憶力、判断力、決断力、コミュニケーション能力、機敏さ、
バイタリティ、傾聴力、行動力、などなど、
責務の遂行に必要な様々な面での能力が阻害されてしまいます。
結果として、うつ病になると仕事上でのミスが増えたり、
能率があがらず期限までに計画が実行できなかったり、といった
現象があからさまになってきてます。
この段階にまで症状が進むと、上司や部下や同僚あるいは
顧客や業者に、不満やクレームが生じることも多々発生してくるので、
会社としても対応を迫られる事態になってきます。
また、本人自身が深く自覚する事態となるわけです。
■ 3) 評価や待遇あるいは失職への不安
このような本人自身の能力低下の自覚は、
自分自身に重大な不安を引き起こします。
例えば….
うつ病と診断されると今の仕事から外される、昇進や昇格が無くなる、
経歴に汚点が残り、会社での将来は真っ暗になる、
はたまた、最終的には会社にいられなくなる、
その結果、収入も無くなり路頭に迷うようになる…..
そんな不安を抱え込むようになります。
そのような妄想にも似たネガティブな考えが、頭の中に渦巻き、
一杯なってしまい、これがまた新たな不安を引き起こすという
悪循環に陥っていくのです。
抑圧された不安のゆえに、会社はおろか家族や医者にすら
打ち明けられないという日々が続きます。
そしてついには、上司や同僚が、
「最近ちょっと様子がおかしいぞ、病院に行ったら?」
とアドバイスしてくれたり、あるいは自分自身の中で、
苦しさが耐え切れない重さに達して初めて、病院を訪れることになります。
このようにして病院に行き、うつ病と診断されると、
数週間から数ヶ月は休むようにとの診断を受けます。
少なくとも今まで会社に黙って耐えていたのが、
解放されたような気になります。
これには正直ほっとする人も多いのではないでしょうか?
うつ病で休業後の仕事への復帰
仕事上のストレス要因から逃れ、
ゆっくりと休養をして静養と回復に専念していれば、
着実に回復に向かうはずです。
ところがその次のステップがもう一つの頭の痛い問題です。
それは、いつどのように職場に復帰できるのか?という疑問です。
- うつ病が完治しないと仕事に復帰できないのか?
うつ病の症状が仕事が出来る程度にまで軽くなってきたら、
完治しているとは言えないまでも、職場復帰を検討し始めます。
あまり長く休業していると、
会社での立場が危うくなってくることも心配なので、
完治してからでないと職場復帰できないと診断する医師はいません。
休業期限が近づくと大抵の医者は、回復の程度に関わらず、
職場復帰可能との診断書を書く傾向にあります。
しかしうつ病からの回復が中途半端なまま、
同じ仕事に戻ると、再発するケースが多いのです。
うつ病の原因となった仕事上のストレス要因が、
そのまま残っているからです。
休職中に、職場で人事異動がなければ、
上司や部下や同僚との関係はそのまま再開するし、
業務内容も、仕事のパターンもスタイルも環境もツールも同じなので、
また同じストレスを受けることになるという訳です。
確かに、うつ病は非常に再発性の高い病気なので、
職場復帰した際には、どんな仕事に戻すのか、注意が必要とされています。
しかし全く異なる業務では、それに適応するのが、
新たなストレスとなりかねません。
復帰直後は、うつ病を再発しないよう、
同じ職場で仕事の時間を短縮し難易度を軽くした
「軽減措置」を施すのが良いとされています。
- 会社側の対応
またうつ病を引き起こすストレス要因を
仕事の内容から取り除いておくことも必要になります。
もっともこれは、職場復帰した本人だけでは
ほとんど解決できません。
ほとんどが会社側の対応になります。
長い休業のあと職場復帰する従業員だけのために、
前もって職場のすべてのストレス要因を取り除いておいて、
再び職場に迎え入れるという会社はほとんどありません。
うつ病療養のための休職中も仕事が回るように、
休職者の仕事を何とか他に回して、会社としての業務を
継続していくことを第一優先してきたはずです。
職場環境や人間関係の見直しなどは後回しになっているか、
あるいは無視してやりすごしている場合が多いのです。
したがって休職したあと職場復帰した際に、
あらゆるストレス要因が改善されているという期待は、
するべきではありません。
これは、会社にとっても非常に難しい課題になります。
うつ病で休業した従業員にどんな仕事をしてもらうか、
どこでどう迎え入れたら良いのかは、近年、
企業側でも重要な人事施策上の課題の一つとなりつつあります。
- 会社-本人-医師の判断のバランス
① 会社側がどこまで職場復帰の条件を配慮して整備できるか?
② 本人自身の回復の自覚と仕事に対する意欲の回復がどの程度か?
③ 主治医と産業医の医学的な見地からみた判断
の三者間でバランスのとれた判断をすることがもっとも良いといえます。