うつ病になりやすい人は自己評価の低い人?

■抑うつ症(うつ病)
生きてくうえでさまざまな問題にぶつかれば、
私たちは誰もがうつ病になる可能性を持っている。

だが、どのくらいの確率でそうなるかは、
その人の持つ自己評価によって変わってくる。

では、どんな人が危険なのだろう?

ごく普通に考えれば、それは自己評価の低い人である。

だが、自己評価が高くても、それが不安定であれば、
うつ病になる危険性は高い。

自己評価が高く不安定 な人は、
自分の地位やイメージを保つために絶えず努力している。

だが、そのいっぽうで失敗や人からの批判には弱い。

そこで、自分のしていることがうまくい かなかったりすると、
深く落ちこんでしまう場合があるからだ。

しかし、そうはいっても
うつ病の可能性と言うことであれば、
やはり自己評価が低く安定している人がいちばんだろう。

自己評価が低く安定している人は自分を 否定する気持ちが強く、
その状況を改善する努力をしない。

その結果、少しでも何かがあれば抑うつ状態になり、
そこから抜け出すことが難しいからだ。

■自己評価が低いのはうつ病か?
では、自己評価が低いこととうつ病であることはどう違うのか?

反対に、この二つはどういうふうに関係しているのか?
しばらくはそのことについて考えてみよう。

まずはこの二つの違いについてまとめよう。
 ◆―自己評価が低いこと(特に低く安定している)
<自己評価の状態> ほとんど変化しない。
<病気かどうか> 性格の特徴にすぎない。
<精神状態> もろくて不安定。
<行動との関係> 自分の行動に自信が持てない、
しなければならないことを先延ばしにする、
自分の行動に満足できない、などの問題がある。
<身体的な症状> 特にない。
<心理的な特徴> 自分に価値があると思えない。すぐにあきらめる傾向にある。
<自殺の恐れ> 死や自殺について考えることはない。
<知能に対する影響> 本人は「知的能力が劣ってきている」と言うことがあるが、
客観的にはそういった現象は見られない。集中力も記憶力も正常に働く。

 ◆―抑うつ症(うつ病)
<自己評価の状態> 変化することがある。
<病気かどうか> 病気。
<精神状態> 深く病的な悲しみが続く。良い出来事には反応を示さない。
<行動との関係> 気分がうちひしがれて、何をしても楽しくない、
何もしたくない、などの障害がある。
<身体的な症状> 食欲不振。不眠。動作が緩慢になる。無力症。
<心理的な特徴> 自分を卑下したり、過剰で不適切な罪悪感を持つ。
<自殺の恐れ> 死や自殺について考えることがある。
<知能に対する影響> 客観的に測定できる。集中力と記憶力に障害が見られる。

このうちいちばん大きな違いは
病気かどうかということだろう。

うつ病は文字通り精神の病である。

だが、自己評価が低いというのは性格の特徴にすぎない。
これは大切なポイントである。

いっぽう、この二つの関係に目を向けると、
まず何よりも自己評価の低さはあらゆる種類の
うつ病に共通して表れる症状であるということが言える。

すなわち、うつ病になると、自己評価は著しく低下するのである。

◆―発症する危険
青年期(十二歳から十九歳くらい)に自己評価の低かった人間は、
大人になってからうつ病を発症することが多い。

また、<産後抑うつ>として知られる出産後 のうつ病は、
まわりの人間からサポートを得ると同時に、
自己評価を良好に保つことによって、
発症しにくくなるという。

これについてはまた別の研究も行われ ていて、
七百三十八人の女性を対象に調査を行ったところ、
<産後抑うつ>にかかった女性は圧倒的に自己評価の低い人が多かったという。

ところで、うつ病になる危険は、残念ながら
親から子に伝えられることがある。

たとえば、ある研究によると、母親がうつ病の子どもは、
そうでない子どもに比 べて自己評価が低いことがわかった。

これはうつ病の母親が子どもに対して
否定的なメッセージを送ることが多いからであるが
(子どもの将来を悲観したり、お まえは駄目な子だとすぐに口にする)、

こうして青年期までに低い自己評価ができあがれば、
本人がうつ病になる危険性も高くなるというわけである。

これとは反対に高く安定した自己評価ができていれば、
たとえ両親が離婚するなど辛い出来事があっても、
それに耐えることができる。

両親の離婚はうつ病を引 き起こしかねないほど
重大な出来事である。だが、自己評価が高ければ、
その危険を比較的容易に避けることができるのである。

◆―病気の程度と慢性化
うつ病を発症した場合、自己評価が低ければ低いほど、
そのうつ病の程度は重症になる。

また、それと同時に回復の契機もつかみにくくなるので、
病気は慢性す る恐れがある。

というのも、自己評価が低ければ、
患者は何も行動を起こさず、
自分を好きになることができないまま、
ただ否定的な感情を心のなかで反芻す る。

自分が回復して社会復帰できるようになるとも思わない。

ということになれば、いつまでたっても心配事を抱えるばかりで、
気持ちが明るく勇気づけられる ようなことは何も起こらなくなるからである。

この反対に、まだ軽いうつ病の場合は、
患者のなかにも社会と接触を持って
人から認められたいという気持ちが残っている

―すなわち、わずかながらでも自己評 価は高い。

そうなると、先ほどとは反対の理由で回復の道筋が見えてくる。

人から認められれば気持ちも明るくなり、自信も出てくる。

そうなれば、また何かを する気になって、という具合に
状況がいい方向に回転して、

最後にはうつ状態から脱することができるのだ。

自分に対して肯定的な気持ちを持つ(自己評価を高 くする)といのは、
回復には欠かせない大切な要素なのである。

■引き金になる出来事
うつ病の引き金になる出来事は性格のタイプによって違うという説がある。

うつ病との関連で人間は二つのタイプに分けられる、
「向社会型人間」と「自主独立型人間」である。

そして、このどちらに属するかによって、
どんな出来事がうつ病の引き金になるかが変わってくるという。

 ◆―「向社会型人間」の場合
<定義> 他の人からつねに注目されたり、励まされたりする必要がある人間。
<うつ病の引き金となるような出来事> 誰かに批判される、あるいは人から
受け入れられなかったり、仲間はずれにされたと感じる出来事。
<自己評価への影響> 自分は人から愛されないと思う。

 ◆―「自主独立型人間」の場合
<定義> 目標に到達することが大切で、他の人から支配されたり、
束縛されたりするのを嫌う人間。
<うつ病の引き金となるような出来事> 何かに失敗すること、あるいは、
人に頼らなければならなくなるような出来事。
<自己評価への影響> 自分には能力がないと思う。

「人から受け入れられなかった」というのは、
「愛されなかった」ということである。

また、「失敗した」というのは「自分の能力が否定された」ということで ある。

これは前に述べた自己評価の栄養源の話と関係している。

自己評価の栄養源は、「愛されているという気持ち」と
「能力があるという気持ち」を合計した ものである。

ところが、この二つのタイプの人間は、
そのどちらかが見たされなかった場合に
うつ病になりやすくなるのだ。

うつ病の引き金になった出来事を調 べていくと、
そのおおもとはやはり自己評価が傷ついたことにあったのである。

なぜうつ病はエネルギーが出ないの?

うつ病になると「力が全然わいてこない」と患者さんはよく訴えます。

また、天気でいうと「どんよりとした曇り」とも表現されます。

そうした心の内をあらわす表現は、実は的を射ているのです。

健康なとき、私たちは意欲や感情を、
行動や表情などで外にあらわします。

こうした「気持ち」→「エネルギー」に変換することが、
うつ病では難しいのです。

ここでは、心から脳内のエネルギー変換のヒミツに迫ります。

さまざまな症状から始まるうつ病

うつ病の症状は、風邪や腹痛などの病気と違って
とても広範囲にわたります。

患者さんの訴えが「気分が落ち込み、ひどく憂うつになる」
というものだけなら、診断もとてもわかりやすいのですが、

「早朝に目が覚めるのに夜寝られない」とか、
「食欲や性欲がない」、なかには、
頭痛、歯痛や胃痛など「痛み」を
最初に訴える患者さんも少なくありません。

さまざまな症状の原因を探っているうち、
専門医への受診が遅くなり、
結果としてうつ病と診断されるまでに
時間がかかってしまうことも多くあります。

原因不明のこうした症状が出たときは、
最近の生活状態や、身近な人の死亡や離婚、転居などの
人生における大きなイベント、ショックな出来事、
過剰なストレスがないかなども含めて考えましょう。

うつ病をダムに例えると…

うつ病はよくダムの話に例えられます。

順調に生活を送っているときはダムには心理的エネルギー、
すなわち水が満々とたたえられていて、
ダムにある発電所も活発に動き、

感情や活動のエネルギーもたくさん得られて、
行動力にあふれ、表情も豊かな生活をしています。

しかしいったん過剰なストレスを受けたり、
過労などさまざまな要因で心理的エネルギーが減っていき、

いわばダムの水が少なくなっている状態になると、
発電所のタービンも回らず、
エネルギーを取り出すことができません。

表情もほとんどなく、
ずっと家に籠ったきりということもあります。

うつ病とは、まさにこのような状態なのです。

うつ病の治療は少しずつ根気よく

うつ病のとき、脳では心理的エネルギーを取り出すはたらきが悪くなっています。

ダムの水はだんだんと少なくなっていき、
ついには発電が止まってしまいます。そのため、
脳は「これは大変だ!」とさまざまなサインを、
症状という形で私たちに送ってきます。

そのサインである症状を見逃さないようにすることが大切です。

そして、脳が発信してくれた症状の改善をはかりながら、
ダムの水を増やしていくためには、
休養と薬物療法などによる治療が必要になってきます。

しかし、いったん減ってしまったダムの水を増やしていくのは
なかなか容易ではありません。

この治療には根気と調節が必要なのです。

うつ病の原因?! 神経伝達物質のヒミツ

神経伝達物質とは?

一般には、「気の持ちよう」といわれたうつ病は、
医学的に研究が進み、その原因が探られています。

ヒントは、脳に一千数百億個も存在するとされる
神経細胞にありました。

どのように研究者たちは、心の問題の解決法を
脳の中に求めたのでしょうか?

うつ病と神経伝達物質について考えてみましょう。

私たちの心と頭の中では…?

私たちは日常、さまざまな出来事に出会って
喜怒哀楽の感情を表現したり、
いろいろなことを考えたり、
食欲などの意思を行動に移したりして生活しています。

こうした感情や意欲のようなものは、
単に「心」があるから生まれるということではなく、
脳の機能として役割分担があり、

きちんとコントロールされていることが、
脳科学の進歩によってわかってきました。

脳では神経細胞同士の情報伝達によって、
心の機能(意思や感情)を体の機能(行動や運動)を行う
細胞に伝えていくはたらきを持っています。

脳の神経細胞同士も、さまざまな情報を基本的に
電気信号でやりとりしています。

神経細胞はさまざまな情報を電気信号で伝達しています

神経細胞が網のように広がるわけは?

一見、神経細胞は脳内に網のように
張り巡らされているように見えますが、
実は1本1本独立していて、
隣の神経細胞との間には空間があります。

なぜこのような構造なのかというと、
急激に外部から力が加わったとき
(例えば、頭をどこかにぶつけてしまったとき)に、
神経細胞が切れてしまうのを防ぐ、いわば自然の工夫のようなものです。

神経細胞を詳細に見ると、
樹の枝のように伸びた突起があり、
そこに無数の隆起があって、

神経細胞同士をつなぐシナプスというつなぎ目があることがわかります。

気持ちや意欲はどのように伝わるの?

シナプスの間の隙間では、
電気信号で送られてきた情報の量に応じて
神経伝達物質がこの隙間に送り出され、
次の神経の受け取る側に渡されることで、情報が伝わっていきます。

このとき電気信号が神経伝達物質に変わることで、
情報の信号を強めたり、さらに情報が細かく分かれて
伝わるはたらきが生じるのです。

うつ病のときには、この神経伝達物質に
異変が起きていると考えられています。

シナプスの間の隙間では、情報は神経伝達物質で伝わります

神経伝達物質にはどんな種類があるの?

現在、神経伝達物質は100種類以上も存在するといわれていて、
そのうち約60種類が発見されています。

なかでも、うつ病の治療ではセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンという
3種類が重要視されています。

これらの神経伝達物質がバランスよくはたらくことにより、
脳の機能は健全に保たれるのですが、
うつ病では過剰なストレスや過労などが引き金となって、

これらの物質が減少し、喜怒哀楽のコントロールが
できなくなってしまうと考えられています。

神経伝達物質にはどんなタイプがあるの?

神経伝達物質には、情報を受け取る側の受容体に
はたらきかけて神経細胞を興奮させるタイプと、
抑制させるタイプがあります。

うつ病の治療で重視される神経伝達物質のうち、
セロトニンは抑制型の神経伝達物質で、
ノルアドレナリン、ドパミンは興奮型の神経伝達物質です。

私たちは日常の中で、さまざまな出来事に出会って、
これらの神経伝達物質を作り出しているわけですが、
ときには偏りが生じ、

例えば興奮型の神経伝達物質が過剰に作り出されると、
神経が興奮しすぎて暴走することもあります。

健康な状態では、
神経伝達物質のバランスがとれており、
脳や体の機能も健全に保たれるのです。

どうしてうつ病になるの?

私たちの心の状態、脳内の神経の状態は毎日、
毎時変化しています。

うつ病になる仕組みはまだ完全には解明されていませんが、
神経伝達物質の中のモノアミン類
(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなど)が
関わっていると考えられています。

過剰なストレスや過労などが引き金となって、
神経伝達物質のうち、
セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンの量が減少したり、

はたらきが低下してくると、さまざまなうつ病の症状が
あらわれるのではないかといわれています。

うつ病を放置するとどうなる?

うつ病は、自分で気づかないことがあります

うつ病は、風邪などのように「いつから始まった」という
具体的な日を特定することはできません。

いつの間にか、「以前と違う状態になっている」ことに
気づくものの、それがうつ病であるとは
自覚できない場合が多いようです。

特に働き盛りの世代では、
職場における過労やプレッシャーから
うつ病を発症する人が増えています。

うつ病が原因で気分が晴れず、集中力を欠いたり
仕事でミスを重ねているにもかかわらず、
「もっと頑張らねば」などと思い詰めてしまう人もいます。

このようにうつ病に気づかないまま放置すると、
症状がどんどんと悪化してしまうおそれがあるのです。

周囲の人が、うつ病のサインに気づいてあげてください

本人がうつ病を自覚していなくても、
周囲の人が「以前と様子が違う」「どこか変だ」と
感じることも多いようです。

職場においては仕事上のミスが多くなったり、
家庭においては元気がない、食欲がないなどの
サインがあらわれます。

好物だった食べ物にも食欲がわかなくなるので、
普段一緒に食卓を囲む家族にとっては
わかりやすいサインかもしれません。

なるべく早い段階で周囲がこれらのサインをキャッチし、
うつ病に気づいてあげることが重要です。

体の病気が原因となってうつ病になることも?

糖尿病や脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病、
がん、心筋梗塞や脳卒中の患者さんは
うつ病を併存しやすいといわれています。

病気そのものや治療薬の影響などで
脳の機能に影響を及ぼし、
うつ病を発症する場合もあります。

病気だから元気がないのだと、
見過ごされがちなだけに注意が必要です。

うつ病を発症するのはどんなとき?

ストレスが、うつ病発症のきっかけになることもあります

うつ病の発症には、ストレスが大きく関係しているといわれています。

「心が弱い人はストレスに弱いから、うつ病を発症するのではないか」
と考える人がいるかもしれませんが、ストレスとはそもそも
「心や体にかかる刺激や負荷」を指します。

つまり、人によっては思いもよらない出来事がストレスになるのです。

親しい人との死別や離婚、あるいは病気になるなどといった
悲しい、つらい出来事がストレスとなるのは理解しやすいと思われます。

しかし、それ以外にも昇進や結婚、こどもの独立など、
どちらかというと明るい人生の転機でさえストレスとなることがあるのです。

うれしい、明るい出来事もストレスになりえます

悲しい、苦しい出来事だけでなく、
喜ばしいことが原因となって
うつ病を発症するのはどうしてでしょうか?

環境の変化に対する受け止め方は、人によってさまざまです。

喜ばしい出来事であっても、それが急激な変化となって
自分の生活に影響を及ぼす場合、自分なりに考え、
対処することが難しく、それが大きなストレスとなって
うつ病発症の要因となることもあるのです。

いまの社会は経済やシステムの構造がめまぐるしく変化し、
日常生活のさまざまなシーンにおいて急激な変化や進歩に
対応しないといけません。

そうした社会背景が、うつ病の患者さんを
急増させているのかもしれません。

うつ病が発症するしくみ

ただの落ち込み?それともうつ病?

うつ病は、脳の働きに何らかの問題が起きて発症すると考えられています。

単に気分が落ち込んだ状態なのか、
それともうつ病であるのかは、
具体的な数値などではっきりと示すことは難しいのですが、
症状の程度や質、生活への支障の出方などで判断することができます。

それに、うつ病は心の症状だけではなく、
「食事がおいしくないし、つまらない。
『食べなきゃ』と思うけれど進まない…」

「いつもより早く目がさめるし、
寝ようとしてもなかなか寝付けない…」といった体の症状が
あらわれることもあります。

そのあらわれ方は、人によりさまざまです。

発症のきっかけはさまざま

その人自身の物事に対する考え方や生活環境、
日常生活において発生したストレスなどが
複雑にからみあって引き起こされると考えられています。

遺伝との関連も研究されていますが、
特定の遺伝子があれば必ず発症するというものでもありません。

なかには、うれしい、明るい出来事がきっかけとなって、
うつ病を発症することもあるのです。

うつ病が発症するしくみ

脳の中では、情報を伝達するためにさまざまな
神経伝達物質が働いており、そのうち
セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンは、
モノアミンと総称されています。

一説に、うつ病は、このモノアミンが減ることで
引き起こされるとされています。

しかし、これだけでうつ病が発症するしくみを
すべて説明できるわけではなく、ほかにもいくつかの説があります。

長引くうつ病の誤診と薬漬けの危険性

長く続く重度のうつ病の症状と対処法

薬物療法を続けているのにうつ症状に改善が見られない場合、
他の病気をうつ病と誤って診断されている可能性もあります。

そのまま放置してしまうと、本来治療すべき病気が悪化してしまいかねません。
ここでは、うつ病の誤診による薬漬けの危険性について紹介します。

うつ病の治療を受けているものの、なかなか治らない。
そのことで不安を感じている人も多いのではないでしょうか。

うつ病治療の効果の出方には個人差があるので、
治療が長引く人もいれば、短期間で済む人もいます。

しかし、あまりにも長期に及んでいる場合は誤診の可能性もあります。
うつ病と誤診されやすい病気を紹介します。

うつ病と誤診されやすい病気

うつ病に間違われやすい病気の種類と特徴を解説します。

躁うつ病(双極性障害)

躁うつ病=双極性障害は、うつ病と同じ気分の障害が起こる精神障害ですが、
うつ病とは異なります。

うつ病は抑うつ状態が続くのに対し、
双極性障害は抑うつ状態と躁状態が交互にくりかえされます。

抑うつ状態の時は、うつ病の症状に非常によく似ているため、
誤診されやすくなりますが、双極性障害は、
うつ病よりも天気や季節に影響を受けやすく、

環境の変化に適応しようとする自律神経系に関係して
引き起こされると考えられます。

躁状態の軽度などにより、「双極Ⅰ型」と「双極Ⅱ型」に分類されます。

統合失調症

以前は「精神分裂病」と呼ばれていた病気で、
幻覚や妄想を見るといった症状が特徴です。
感覚や行動に変調をきたすので、周囲の人たちになじめないなど、
社会生活にも影響を与えます。

症状の初期に抑うつ状態が出て、うつ病と誤診されることがあります。

パーキンソン病

脳内の神経伝達物質の異常により、手足のふるえ、
動作や歩行が遅くなるなどの症状があらわれる病気。

顔の表情の変化がなくなる、感情が乏しくなる、
話し方が単調になる、などの症状があり、うつ病と間違えられることがあります。

認知症

脳や体の疾患を原因として記憶・判断力などに障害を起こす病気です。
もの忘れが多くなる、迷子になるといった初期の症状から始まり、
会話が困難になる、周囲の介助やケアが必要になるなど、
病気の進行につれ身体にも影響を与えていきます。

初期症状の認知機能の低下などがうつ病と似た状態をもたらします。

発達障害(ADHD)

日本では注意欠如・多動性障害と呼ばれる障害です。
落ち着きがない、忘れ物が多い、考えたことをすぐ口にしたり
行動してしまうといった、「多動性」「不注意」「衝動性」の症状があります。

障害による日常生活においてのトラブルが誘因となって
気持ちの落ち込みや自信欠乏、不安などから
うつ病と診断される場合があります。

自閉症スペクトラム障害(ASD)

幼児期より発生する脳の発達に関連する病気。
DSM-IVまではアスペルガー症候群との呼称で知られている疾病です。

通常と比べて他人とコミュニケーションをとることができない、
言語の使用に異常がある、同じ行動をずっとくりかえすなどの症状があり、

正常な社会生活を営むことが困難となります。

他人とあまり会話をしない、顔に表情が浮かばないなどの状態から、
うつ病と誤診されることがあります。

誤診による薬漬けが危険をもたらすことも

たとえば、双極性障害の場合、治療には炭酸リチウムなどの
気分調整薬が用いられるのが基本です。

しかし、うつ病では抗うつ薬が使われるため、誤診により、
異なる治療薬を処方され、結果、処方された薬を服用しているのに治らない、
といった状態になってしまいます。

病気が治らなければ、さらに別の薬を処方することになりますから、
薬の量だけが増えていき、結果「薬漬け」の状態になってしまうのです。

ちなみに、多種類の薬を飲むことは「多剤併用療法」と呼ばれる治療です。

多くの場合は病気の治りが悪く、病状が改善しないために薬が
1種類から2種類、3種類と増えていった結果です。

薬の数が多くなると、分量を間違えて飲んでしまう、
効果がないと自分で勝手に分量を変えてしまうなどの
トラブルを起こす危険もあるので注意が必要です。

誤診を疑ったときは

もし相談後も治療法や病状が改善されないときは
セカンドオピニオンを求めてみるのも手です。

最近では脳の血流量によって客観的に病状を診断できる
「光トポグラフィー検査」などの技術もあるので、活用してみてもよいでしょう。

うつ病発症のしくみ(病態)

うつ病の原因を調べる最近の研究では、
脳の神経細胞における情報の伝わり方に
異変が生じているということが報告されています。


私たちは生活の中で、脳から「食べる」、「寝る」などの

本的な動作の命令をからだに伝えていますが、
「意欲」や「記憶」などの感情を伝えたり、知的な命令もしています。


このとき神経の細胞から細胞へ情報を伝えているのが

「神経伝達物質」と呼ばれるものです。

 

この中のセロトニンとノルアドレナリンは、
気分や意欲、記憶などの人の感情にかかわる情報の
伝わり方をコントロールし、こころとからだの働きを
活性化していると考えられています。

 

うつ病では、何らかの原因で神経の細胞と細胞の間にある
セロトニンとノルアドレナリンの量が減って、
情報がうまく伝わらないために、さまざまな症状が
あらわれると考えられています。

うつ病の原因

「うつ病はなぜ起こるのか?」
はっきりした原因はまだよくわかっていませんが、

脳で働く神経の伝達物質の働きが悪くなるのと同時に、
ストレスやからだの病気、環境の変化など、
さまざまな要因が重なって発病すると考えられています。


大切なことは、うつ病はただ1つの原因のみで

発病するのではないということです

 

遺伝的要因
環境要因
・乳幼児の激しい環境
・家族や親しい人の死亡
・仕事や財産の損失
・人間関係のトラブル
・家庭内不和
・就職、退職、転勤、結婚、離婚
・妊娠、育児、引っ越し


身体的要因

・慢性的疲労
・脳血管障害
・感染症、ガン、甲状腺機能の異常
・月経前や更年期、出産後のホルモンバランスの変化
・降圧薬、経口避妊薬などの服用

 

過度のストレスがきっかけになることも

うつ病は、何らかの過度なストレスが引き金になって
起こることもあると考えられています。

さまざまなストレスのうちで特に多いのは
「人間関係からくるストレス」「環境の変化からくるストレス」です。

例えば「身近な人の死」や「リストラ」などの
悲しい出来事だけではなく、「昇進」や「結婚」といった
嬉しい出来事や環境の変化から起こることもあります。

 

うつ病になりやすいタイプ

うつ病になりやすいタイプとして、まじめで責任感が強く、
人あたりもよく、周囲の評価も高い人が多い
ということがいわれています。


このようなタイプの人は自分の許容量を超えてがんばりすぎたり、
ストレスをため込んでしまうため、こころのバランスを崩してしまいます。

すべてに完璧を求めるのではなく、
物事に優先順位をつけてやっていくようにするなど、
考え方を変えていくこともうつ病になりにくくするためには重要です。

 

しかし自分の性格を変えるのはとても大変なことです。

今回の「うつ病克服」は自身の性格を変える作用も
重要な方法だと捉えています。

 

循環気質

元気な躁状態と抑うつ状態を繰り返す双極性うつ病になりやすいタイプで、
社交的、善良、親切で親しみやすい反面、激しやすいという面をもっています。

 

執着気質

義務感が強く、仕事熱心、完璧主義、几帳面、正直、凝り性

などの特徴があります。

仕事の質は高いのですが、量がこなせません。

仕事を一生懸命完成さるために軽い興奮状態が続いたあと、
ガクッときて、抑うつ状態に陥りやすいタイプです。

また二者択一的で白か黒か、ゼロか100かという結果を決めつけたがり、優先順位をつけられないタイプでもあります。

 

メランコリー親和型気質

自己の性格だけでなく、他との関係も重視するタイプです。


そのため他人の評価が大変気になり、いったん何か問題が起きると、

悲観的になって、すべて自分の責任だと考えるタイプでもあります。

 

うつ病は女性と高齢者にも起こりやすい
データによると男性よりも女性のほうが
うつ病になりやすいとされていますが、
これは女性のほうが受診する患者さんの数が多いことに加え、


出産や月経など女性特有のからだの特徴や生活で起こりうる

さまざまな出来事なども理由になっているようです。


さらに、高齢者がうつ病になりやすいのは、
配偶者との死別や、社会的孤立など、
環境的にうつ病になりやすい要因がたくさんあるためです。